選手たちが、何か伸び悩んでいるみたいなんです。どうも、言われたことをやっているだけで、自分たちで考えていないみたいなんです。
それは、ずいぶん欲張った思いですね。 選手は言われた通り、きっちりやっているみたいに見えますけど。次のステップの自主性を発揮させるのは難しいです。選手の潜在能力を引き出せる指導者とは、どんな人なのか、探ってみましょう。
選手たち及び我々指導者の為にも、是非とも参考にさせて頂きたいです
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選手の内面からモチベーションを掘り起こす
コーチングやスポーツ心理学を研究する早稲田大学の堀野博幸氏は、指導をするうえで大切なのは、選手のやる気を引き出し潜在能力を発揮させる「動機づけ」にあると言っています。
また、指導者自身の資質向上のためには、何が必要なのでしょうか。
<メンタルがパフォーマンスに及ぼす影響を研究している堀野氏のことば>
指導者の資質向上に必要な事 | |
メンタル面 | 選手の動機づけ(モチベーション)を刺激する ⇒人が何か行動を起こし、行動を持続するために必要な心の力を選手の内面から引き出す |
知識面 | 技術、戦術、体力を身に付ける |
知識はもちろん身に付けなければならないが、最も大事なことは選手の動機づけを刺激すること。
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下記に動機づけの普遍的なアプローチの項目をまとめます。
コーチングにおける動機づけのアプローチ
- 選手のステップに合わせて、タイミングよくコーチング
- 「内発的な動機づけ」をしつつ「外発的な動機づけ」で刺激を与える
- 「達成動機」が強いか「失敗回避(損失回避)動機」が強いかを判断
- 選手が自ら考え、気づくのをサポートする
※しっかり身に付けましょう
1.選手のステップに合わせて、タイミングよくコーチングする
項目 | 内容 |
①安全面 | 選手が安心してプレーできる環境の整備 物理的にも精神的にも、安心してノビノビとプレーでき、積極的にトライできる環境 ⇔変なことを言ったら監督に怒られるんじゃないかとビクビクすることがない |
②承認欲求 | 良いプレーをしてメンバーに認めてもらいたいという欲求が出る |
③自己実現 | チームの中心選手クラスになると、もっと上達したいという欲求が出る |
まずは、選手が安心してプレーできる環境を整えます。そうすると、選手は、承認欲求が出てきます。次に自己実現欲求へと発展します。マズローの欲求に似ています。
そのため、指導者は、選手をよく観察し彼らの欲求の段階に応じたトレーニングを用意します。そして、内発的な動機づけを高めるコーチングを、指導者が意識的に行ったりすることが重要になります。
2.「内発的な動機づけ」をしつつ「外発的な動機づけ」で刺激を与える
動機づけは大きく2つに分けられます。選手の外側から与えられる「外発的な動機づけ」と、選手の内側から出てくる「内発的な動機づけ」です。
種類 | 内容 |
外発的な動機づけ | 大会で勝って優勝する。プロに一歩近付ける ⇒短期的には大きな動機づけにはなる |
内発的な動機づけ | 選手がもともともっているもの。スポーツは楽しい、もっと上手くなりたい、 スポーツを通して成長したいといった純粋な欲求 ⇒見失っている思いを再発見し、解き放つ作業 |
指導者からの評価や、伸び悩みで選手が悩んで苦しんでいるときには、外発的動機づけでは選手を立ち直らせることはできない。そういうときは、選手自らのこころの中で眠っているモチベーションを掘り起こす内発的動機づけが必要になります。
選手はプレッシャーを感じたり自信をなくしたりすることで、いつしかスポーツへの純粋な思いを見失っています。内発的な動機づけは、その思いを再発見し解き放つ作業でもあります。
3.「達成動機」が強いか「失敗回避(損失回避)動機」が強いかを判断する
また、選手に働きかける際は、その選手のパーソナリティや個性を見極める必要があります。
タイプ | 内容&アドバイス |
「達成動機」が強いタイプ | 勝手にどんどん突き進み、難しいことにチャレンジする選手 ⇒無茶をし続けないようにときには冷静さを促す |
「失敗回避動機」が強いタイプ (損失回避) | すぐ守りに入って新しい挑戦に消極的な選手 ⇒激励して背中を押してあげる。できれば、イップスに掛からないように、 挑戦ができるタイプにメンタルトレーニングをすすめる。 |
どちらのタイプかを判断し、選手の心を察してタイミングを見計い動機づけを行います。
4.選手が自ら考え、気づくのをサポートする
実績を残している指導者は、直接的に手取り足取り教えるようなことはしません。肝心なこと、核となることは問いかけながら選手たちに自分で考えさせるのです。
選手は、コーチが教えてくれないので、自ら行動しなければならないと悟り、自分たちで考え始めます。何を問われているのかを気付くことで、内発的な動機づけが刺激されていきます。
このやり方は、決して放任ではなく、方向性や手掛かりを示しながら忍耐強く選手の心の持ち方が『転換』するのを待ち、選手の自立を促すのです。
待つことは決して易しいことではありません。それは、指導者の成功体験から来ています。『何かに気付いて自らの行動や考え方が大きく変わるのは、人から何かを教えられたときではなく、自分で考えてつかみ取ったときだ』ということです。
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心理学を活かした指導の例
堀野氏が、2018年にチャイニーズ・タイペイ(台湾)サッカー女子代表の監督に就任した時にトライしたコーチング方法を紹介。
ワールドカップ優勝経験のあるスペイン代表監督がインタビューで、「トレーニングで大切なことは何か」という質問をされました。その答えが「選手がうまくなれると実感できるトレーニングだ」です。戦術や技術云々ではなく、これをやればもっと上達できると感じられるトレーニングだということです。これは、心理学的にも内発的動機づけを強く刺激できるというわけです。
『リボーン(reborn)』を合言葉に
このチームは、前年のユニバーシアード大会で、期待されながらもグループリーグで敗退し、若手の選手たちが自信を失いかけていました。
そこで、メンタルの立て直しとして「来たるべきアジア大会ではおもいきってベスト4をめざそう。これまで積み上げてきたものや得意なところは大切にしながら、生まれ変わろう。そのために必要なノウハウはしっかり伝えていくからと、『reborn(生まれ変わる)』という言葉を使って選手たちを鼓舞しました」と、外発的な動機づけで目標設定をしました。
多くの取り組みの中の1つとして、“子どもたちにサッカーを教えるボランティア的な活動” を通じてサッカー本来の楽しさや初心を思い出してもらうことから始めました。
最初は疑心暗鬼の様子だったが、選手たちに笑顔が戻ってきました。
ポジティブなコーチング
選手との会話で気を付けたことは、ポジティブな話に徹することです。
項目 | 内容 |
ネガティブな話 × | 自分の課題はなんだと思う? ⇒現状を否定する、追い詰めるような質問 |
ポジティブな話 〇 | どうなりたい?どんなこと頑張ってるの?もっと頑張りたいことってある? ⇒現状を否定せず、今後の在り方、希望を問う問いかけ |
そうして、会話の中から目標を自分で設定してもらうのです。
普段の声掛けも、指図するような言葉は封印しました。
普段の声かけ | |
指図するような言葉 | 封印 ⇒命令口調、ネガティブ発言に通ずる |
やってほしいことを伝える時 | ○○をやってくれてありがとう ⇒逆説的な言葉になるが、選手は悪い気はしない |
ポジティブな環境で、チームの雰囲気は格段に良くなっていきました。
もっとも印象的だったのは、ベスト4進出がかかった大事な試合の前のミーティングで、たどたどしいながらも中国語でチーム全員に語りかけたことだといいます。
「一番大事な目標に挑戦するその日には、自分も仲間だということを伝えたかった。外国人の監督じゃなくて自分たちの仲間だという一体感を、そして"自分たちならできる"というチームとしての効力感を感じてくれたのでしょう。ドレッシングルームの空気が一瞬にして変わりました。結果的にチームは20年ぶりのベスト4進出を果たすことができ、動機づけの大切さをあらためて感じました」
キャプテンは「監督は私たちの知らなかった部分をトレーニングによって発展させてくれた」と振り返っています。
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指導者と選手はどうしても上下関係が成立します。そこで、関係を重視すれば主従関係になっていきます。それを、ポジティブなコーチングを使うことにより、必要以上のプレッシャーを選手にかけないという事は素晴らしいことです。
ただ、下手なコーチングは相手に見透かされて、上から目線と捉えられる危険があります。私もコーチングをされた経験がありますが、何かに誘導されて行く様な、こんなことも分からないのかと言われているような感じがして、良い感じではなかったですね。今思うと、互いに信頼関係がなかったからかも知れません。
まずは、信頼関係を結んでからポジティブなコーチングでお互いを伸ばしていきたいですね。
この些細なコーチングは、内発的動機づけの代表である大谷翔平選手が受けていたことに繋がりますね。ご両親は、決して大谷選手の前では夫婦喧嘩をしないように決めていたそうです。喧嘩を見れば、自然と大人の顔色を伺う子になるという事です。それほど感性を大事にしていたのですね。
結果、素晴らしい選手に育ちましたね。これからも学んでいきたいものです。