日本とアメリカで少年野球の指導など違うのですか?
違いはあると思いますよ。少年野球の体制も違いますし、野球に対する考え方も違うみたいですよ。
アメリカは野球の本場なので、参考に知っておきたいですね。
目的でリーグが分かれる
慶応義塾大学大学院教授の蟹江憲史さんが、2021年8月から約1年間米国での滞在中に11歳の子供が野球を経験した内容を報告しています。それをもとにして、アメリカでの実態を考えていきましょう。
アメリカの少年野球には多くのリーグがあり、それらを大別すると、3種類程度のレベルになります。一つは初心者レベルのレクリエーション・リーグ。次に、競技レベルのトラベル・リーグ。そして、その中間に位置するセレクト・リーグです。この多様性を見ただけでも、いかにスポーツの意義を考えているかがわかります。
トラベル・リーグは試合に勝つことを目的としており、試合をするための遠征もあり、入るためにトライアウトも存在します。また、レクリエーション・リーグは名前の通り、レクリエーション(娯楽)のために野球をするリーグです。メジャーリーグを目指したりするのではなく、あくまでも趣味として野球を楽しみたい子供たちが集まってきます。
【ミラブルzero】シャワーじゃないシャワーアメリカのリトル・リーグ
多くのリーグの中に、リトル・リーグもあります。世界的な組織として有名なリーグですが、アメリカでは地域密着のリーグとしてその地位を築いています。人気や強さはまちまちのようです。上記の分類では、セレクト・リーグに入ります。
リトル・リーグは試合があり、勝ち残ればプレーオフで優勝を争う仕組みがあります。選抜チームに選ばれれば、州大会や地区大会、そしてワールドシリーズへとつながっていきます。
<各リーグと日本との比較>
項目 | トラベル・リーグ | セレクト・リーグ (リトル・リーグ) | レクリエーション・リーグ | 日本(学童野球:~12歳) |
狙い | 試合に勝つ(遠征もあり) | トラベルとレクリエーションの中間、大会あり リトル・リーグは地域密着、「越境」禁止、選抜チームあり | 楽しみ(娯楽) | 大会あり セレクト・リーグに近い |
方式(球) | 硬式 アメリカでは硬式がベースボールと呼ばれている。軟式はベースボールではない | ← | ← | 軟式 一部(例リトル・リーグ)で硬式もあり |
費用 | 結構高額 | 低額 | ← | ← |
組織 | 指導など、専門的 | ボランティア | ← | ← |
指導 | プロのマイナーリーグの選手 専門のコーチ | 監督、コーチは父兄で対応 | ← | ← |
指導内容 | 強制的な指導はない ・打撃フォーム、守備の構えも個性的 ・エラーや三振で怒られることもない。 ・失敗しても「よく挑戦した!」と褒められる | ← | ← | 指導あり ・指導=厳しさと指導者が思っている ・失敗したら怒られることはあっても、褒められることはまずない |
入部方法 | トライアウト(試験) | 特になし | ← | ← |
チーム人数 | 12人前後 | ← | ← | 基本、人数制限なし(10~20人) |
試合内容 | 打順は、9人ではなく全員参加 守備は、9人だが入れ替え自由 全員参加で楽しむことを重視 | ← | ← | 9人で実施 選手交代等、規則遵守 非レギュラーは出場機会少ない |
球数制限 | リーグや年齢によって異なる 例:1試合で35球前後、それ以上の場合2日間は休養、1週間で65球以内、 | ← | ← | 近年、球数制限実施 例:1試合で70球以内 |
リトル・リーグはトラベル・リーグと異なり、ボランティアで運営されているため、コーチや監督は親がまかなっています。リトル・リーグの魅力の1つに、希望すればだれでも低額で入ることができる点です。実は、トラベル・リーグで野球をやるには、結構なお金がかかります。専門のコーチを雇う費用や遠征費、ユニホーム代なども必要でバカになりません。低所得世帯の子どもには奨学金制度があるとはいえ、アメリカ社会ではお金の有無が、スポーツにもかかわっており格差に繋がっていきます。
ボランティアは貴重ではありますが、専門性には欠けます。そのため少年野球の現場で起きている諸問題:技術指導できない・やらない、監督・コーチの子どもがひいきされてしまう、指導方法が古い、といった問題の原因にもなっています。大事な子どもの教育に関することなので、せめて指導者のライセンス制は必要なことかもしれませんね。日本でも、遅ればせながらライセンス制の実施が考えられています。
日本の少年野球の月謝はアメリカのリトルリーグとほぼ一緒ぐらいだと思いますが、その程度では専門家のコーチは雇えません。見方を変えれば、ちゃんと対価を払って専門家に指導してもらうというのは、大事なことかも知れません。専門のコーチがいれば、ある程度公平性や客観性も担保されます。
ハイクラスの副業「クラウドリンクス」トラベル・リーグの指導はプロが行う
トラベル・リーグの指導者は、プロのマイナーリーグの選手が行うこともあります。パーソナルトレーニングとして1回50ドルといった料金でマイナーリーグの選手が、個人的にプレーを教えてくれることもあります。また、少年野球のコーチを職業としている「コーチ屋」も存在します。
この流れは、野球経験者の今後の仕事の幅を広げるなどの影響が考えられる大事なことです。
ボランティアベースのリトル・リーグと、より専門的なトラベル・リーグというように、アメリカでは様々な選択肢があることが、多様な要求にこたえ、自浄作用が働く仕組みになっていることかもしれませんね。
子どもたちの健康やケガ対策
アメリカの少年野球は、日本の軟式ボールよりも危険な硬式ボールを使うということもあり、子どもたちの健康やケガ対策に関して徹底しています。球数制限もその一つです。リーグや年齢によって異なりますが、例としては基本的に1試合で35球前後、それ以上投げるとなると2日間は休養をとり、1週間で65球以内、といった内容です。何を一番大事に考えるかを徹底していることは学ぶべきことですね。
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全員が楽しめるチーム人数
アメリカは、1チームの人数が12人前後と決まっています。何よりも大事なのは、9人固定ではなく全員が打席に立つところです。平等に機会が与えられる仕組みは、少年野球にはとても大事なことです。9人野球にこだわるあまり常にベンチを温めるだけの子どもがいては、野球がなかなか好きになれません。少年野球が子どもの成長と体力づくりに貢献するためにも、そして子どもたちがスポーツの楽しさを十分に味わうためにも、全員出場が大前提です。
守備は9人ですから、1回につき3人は休むことになります。上記のように球数制限があるので、多くの子どもがピッチャーを経験することができます。こうしたローテーションが、適切な体力づくりや経験となり、成長する機会へとつながっていきます。このことは、勝利至上主義のチームが多い日本でも考えなおす必要がありそうですね。
野球をする期間
アメリカの少年野球チームの活動は、3月から5月を中心とした春に活動を行います。後は、秋シーズンなど単発的にチームが解散、形成されていきます。空いた期間に他のスポーツを行う子も多数います。子供のうちにスポーツを1つに絞るのが常識である日本と、さまざまなスポーツを行わせるアメリカとは文化が違うということもあります。
チーム移籍は頻繁に行われている
秋シーズンも、11月には終わります。日本では、次のシーズンも同じチームに所属するのが普通と思いますが、アメリカでは、シーズン終了とともにチームも解散します。継続する人もいますが、自分に合わないチームだと思えば、別のチームに移ることも日常茶飯事です。また、その都度トライアウトが実施されるので通らなければ入れないのです。
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スポーツをやる以上、楽しめるようにすること。1チームの構成人数を12人程度にして全員が試合に出場できるようにするアメリカの野球を見ていて、つくづくその大切さを感じます。下手な子も上手な子も、同じようにチャンスがあり、皆で楽しむ。それは、多様性を認めることにもつながっている気がします。
蟹江憲史さんがアメリカの少年野球を1年間見て、上手な子が下手な子を責める光景を見たことがありません、と言っています。日本と大いに違うところです。勝つことに重点を置けば、自ずと仲間にも厳しくなっていきます。楽しくスポーツをおこなうことが、底辺の拡大につながり、ひいては競技としても強くなることにつながっていくのではないかと思います。
アメリカと日本の野球の大きな違いの一つは、パワー重視の傾向でした。こちらの子は背も高いし大きい子が多いからでしょうか、バッティングでは飛ばすこと、ピッチングでは速く投げることがとにかく重視されます。子どものころから飛距離を競う訓練をし、指導法もそこに重点を置く人たちが多いです。シンプル・イズ・ベストなのでしょうか。
まとめ
「隣の芝生は青い」ではありませんが、示唆されることは多々ありますね。チームの人数を絞って、全員参加させるという発想は残念ながら、日本ではありません。非レギュラー陣は、日本では出場機会が少ないので、緊張の度合いも大きいものがあります。そこで失敗すれば、余計に出場機会が減ってしまいます。負の連鎖です。その解消ができれば、野球を好きになってくれる子が増えてきそうです。
また、「上手な子が下手な子を責める光景を見たことがありません」は理想的過ぎて、にわかには信用できませんが素晴らしいことです。勝利至上主義ではまず起こりえないことです。
全てにおいてアメリカが正しいとは言えませんが、全員参加と上記の環境は日本でも検討する価値はありそうですね。子供たちの笑顔が増える努力はしていきたいものです。