少年野球をする子供たちが激減しているそうなんです。
原因の1つに、罵声を上げて怒鳴りつける指導方法が問題になっていますね。その為、指導者にも学びの機会を設ける必要があると思っているそうです。
そうなんですか。指導者ライセンス制度はどちらにとっても良い機会になりそうですね。
文部科学省の7つの提言
少年野球の競技人口が激減しており、関係者は危機感を抱いています。そんな中で、指導方法にバラツキがあり、旧態依然とした指導者も多いのです。その為、基準となる指導者のライセンスを設定し、最低限守ってもらう考え方を注入しようとしています。そうすることによって、保護者の方にも安心して子供を預けられるような仕組みを作ろうとしています。
日本のアマチュア野球の統括団体である全日本野球協会(BFJ)の会長を務める山中正竹さんに、新たに導入をされた『U-12指導者ライセンス』について教えてもらいましょう。
2020年11月に発行されたU-12指導者ライセンスのテキストには、技術論、指導論の前に、指導者としての心構えと、スポーツマンシップについて多くのページを割いています。今、問題視されている指導法を最初に考え直してもらうのが目的のようです。
グッドコーチに向けた『7つの提言』を下記に示します。
7つの提言
- 暴力やあらゆるハラスメントの根絶に全力を尽くしましょう
- 自らの「人間力」を高めましょう
- 常に学び続けましょう
- プレーヤーのことを最優先に考えましょう
- 自立したプレーヤーを育てましょう
- 社会に開かれたコーチングに努めましょう
- コーチの社会的信頼を高めましょう
これは、2015年に文部科学省が新しい時代にふさわしい正しいコーチングの実現に向けてまとめたものです。これを冒頭に置いたのは、野球界ではこの考え方が十分に浸透していないからなんです。
続けて「スポーツマンシップ」についても説明しています。
新潟県高野連が一時期提言して話題となった「球数制限」はスポーツマンシップの考え方に基づいているものです。
五輪や各種大会の開会式で選手宣誓が行われます。その時に発言される「スポーツマンシップに則り」で、なんとなくわかったつもりでいましたが、本当の意味を知らずに使っていたことが分かります。
スポーツマンシップとは
一般社団法人日本スポーツマンシップ協会の代表理事である中村聡宏さんの話を聞いてみましょう。
「『sportsman』を英英辞典で引くと、たった一言『good fellow』と書いてあります。つまり『いい仲間』『いい奴』という意味で、スポーツをする人ではないのです」
同協会でのスポーツマンの定義:下記3つの気持ちを備えている人のことを言います
スポーツマンの定義
- 尊重 ・・・プレーヤー(相手、仲間)、ルール、審判に対する尊重
- 勇気 ・・・リスクを恐れず、自ら責任を持って決断・行動・挑戦する勇気
- 覚悟 ・・・勝利をめざし、自ら全力を尽くして最後まで愉しむ覚悟
「この3つは人が生きていく上で応用がきく考え方で、人生を豊かにするために必要なことでもあります。
協会ではこうした3つの要素を持ったスポーツマンが “Good Game” を創ろうとする心構えを『スポーツマンシップ』と定義しています。
深い考えで、単純に正々堂々という意味だけではないことに気付かされます。
スポーツマンシップの神髄を垣間見た北京オリンピック
北京オリンピックのスノーボード、女子ビッグエアの決勝で日本の岩渕麗楽選手は、2本目まで4位でしたが、逆転をかけた3本目で女子では史上初となる最高難度の技に挑みました。技は成功しましたが着地に失敗して転倒。結局4位に終わったのですが、転んだ彼女のまわりに、ファイナリストが次々と集まってきてライバルであるはずの彼女の健闘を称えたんです。
これはスポーツマンが備えるべき3つの気持ちにぴったりのエピソードだと伝えられています。
- 勇気:失敗を恐れず大舞台で最高難度の技にチャレンジする
- 覚悟:順位をさげてしまうかもしれないが、逆転を目指して挑む
- 尊重:試合中は本気で戦っていても、試合が終われば相手の健闘を素直に称えあえる
そして、この様子は後にさまざまなメディアで感動的なシーンとして取り上げられました。
なぜ、日本は真のスポーツマンシップが育たないのか
問題①:日本ではスポーツをすることは辛く苦しいものだという意識が定着している
スポーツが熱狂的に好きな人は日本人の3割。残りの7割はそうでもないか、スポーツが嫌いか苦手という人です。
<スポーツが好きでない理由>
- 子どもの頃に、同じことをやらされて、上手下手、早い遅いと能力で評価される。時には怒られるかバカにされる。
- 多くの指導者が笑うな、歯を見せるな、言われた通りにやれと、苦しいことばかり言う
☆できる子以外は、スポーツが楽しいと思うことが無い。できる子も、優越感に浸るだけかも…
<スポーツをすることは辛く苦しいもの・・・典型的な例>
● 罰走・・・悪いことをしたり、試合に負けた場合、グランド10周といった罰が与えられる
これは、走ることは苦痛だということを刷り込んでいることに他なりません。逆に、100点とったらグラウンドを10周してきてもいいよと言うようにしたら、走ることは楽しいことになるかもしれませんね。
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指導者が考える価値観や評価を一方的に押しつけるような指導を続ける
☞ 子どもはスポーツを嫌いになるだけでなく、主体性を育むこともできなくなる。
たとえば、指導者と選手の会話で『自分で考えろ』『わかりました、考えます』といったものがあります。
これは、すでに言われたほうは自分で考えていません。主体性や自分で考える力を育むには、まず指導者がどういう言葉をかけて、子どもたち自身にどうやって気付かせるかという仕組みを考える必要があります。子供たちは、主体性の存在自体が理解できていない可能性大です。
スポーツマンシップの醸成も同じような問題にぶち当たるのですね。
テキストのカリキュラム
スポーツマンシップ以降のカリキュラムは下記になります。
- ティーチングとコーチング
- 体罰・暴力・ハラスメントの根絶
- リスクマネジメント/安全管理
- チームマネジメント
- 指導者に必要な医科学的知識
- 【実技】投動作の指導
【実技】捕球動作の指導
【実技】打撃の指導
【実技】ボールゲームとその指導
U12テキストは「技術」よりも、指導者の心構えや、選手に対する安全管理、マネジメントなどがより重要視されていることがわかります。逆に言えば、これまでの野球指導は、この部分が弱かったということになります。
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指導者に対する信頼感
野球指導は、練習時間が長くて、指導者が暴言、暴力をふるうから怖い。そして昔、自分が教えられたことを成功体験として今もそのままやっていると言われます。
また指導者が勝ちたいがために、子どものけがのリスクを高めてしまう。そういう指導者が子どもを野球嫌いや、ケガを負わせて野球を断念させてしまいかねない。
指導者の意識を変えることで、野球を好きでい続けられる子供たちを増やしたいと思います。U12ライセンスの普及を通じて、こうした『古い野球』を全体の雰囲気として時代遅れに感じさせる雰囲気をつくっていきたいものです。
指導者講習会(BCC)の冒頭で山中会長は、サッカーの元フランス代表監督のロジェ・ルメールさんの『学びをやめたときに指導をやめなければならない』という言葉を紹介されました。指導者は学び続けなければなりません。技術の進歩もさることながら、スポーツ医学においても新たなデータが日々出てきます。我々も一緒に、子供達のために学び続けていきたいものです。
まとめ
スポーツマンシップの考えの深さが興味深いです。日本人は、ルールに対して礼儀正しく海外からもそれなりに認められているかと思っていたら、野球に関しては手厳しい見方をされています。
一つには、自主性があまり感じられないのかもしれないですね。しかしながら、今はMLBで活躍している大谷翔平選手がいるので、個人だけかもしれませんが見方も変わっているかもしれないですね。
面白い兆候として、かつてのうるさ型のOBは誰も大谷選手に意見することができなくなりました。それは、大谷選手の活躍が彼らの常識を上回っているからです。
新しい時代の始まりかも知れないですね。
いずれにしても、子供たちの将来を考えて良い指導者が一人でも多くなることを希望します。